グリーンベルト (41)
キッチンには古い鍋や釜が置かれている。時代を経て黒みを帯び頑丈であと百年たっても二百年経っても壊れそうになかった。
中庭に暑い日差しが降り注いでいた。庭の隅には厩がありその前で当時の服装をした女性が乳牛を引いていて、にこやかな顔で観光客と写真を撮っていた。
「あたしたちも一緒に撮ってもらいましょうよ」
君江さんがはしゃいだ声で言った。
「もちろんよ」と葉子さん。
こんなときはすごく気が合うのだ。
「古きよき開拓時代のアメリカの匂いがプンプンする写真になるでしょう。いい記念になるわ」と葉子さん。
「そんなのどうでもいいわ」
といいながらも、君江さんが女性に近づいて身振り手振りで話しその後、若い白人女性をまん中に写真を撮った。
「ありがとう」
私たちは礼を言うと、笑いながらそこをあとにした。
「あら、葉子さん顔が真っ赤よ」
「あなただって」
「こんない暑いんですものね」。喘ぎながら私も言う。
農場の方に歩いて行くと、細長い木造の建物が数棟建っていて土産物屋が並んでいる。店をひやかし、木綿のナプキンやパッチワークのクッションカバー、小さなピル入れなどに見とれているうちに気がつくと、周囲には私たち以外にいなくなっていた。
「みんな桟橋に向かったのかしら」
「少し急ぎましょうか」
来た方とは逆の方角に向かって脚を速めた。
途中、平屋の棟が細く連なっていて、小さな窓から中を覗くとそこは当時の奴隷部屋だった。室内は列車の車両のように細長くくすんだ煉瓦の壁沿いに狭いベッドが上下二段に分かれて据え付けられている。古い被布の下からは藁がのぞいていて黴のにおいがしてくる。
手前に煤けた竈があって、横に頑丈そうな大鍋が置かれていた。室内は少し前に見た厩とそれほど変わりがないように見える。
ワシントン家の奴隷部屋がほかの農場主の奴隷部屋と比較してずっとましなのかどうか私にはわからなかった。