ノベル
わたしの拙い小説のご紹介。
老いとは何か。
わたしたちはどこに向かっているのか。
生きる意味についても考えます。
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2025年06月12日
玉木屋の女房〈21〉
細長い道がどこまでも続いている。道の両側には紫陽花のような青い花が被さっている。前を非ひとりの女が歩いている。母親のゆらに違いない。...
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2025年06月03日
玉木屋の女房 〈20〉
「湯漬けが冷めちまうから、早く呼んでおいで」ゆらに言われて、工房に足を踏み入れながら、多江は二人に声をかけた。 「お昼をお上がりなさい...
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2025年05月29日
玉木屋の娘〈19〉
このところ義母のゆらの機嫌がいい。「豆腐を買ってきて。それから八百吉へいって、菜っ葉もね。今日は肌寒いから、温かいものを炊いて食べさせ...
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2025年05月24日
玉木屋の女房〈18〉
食い詰めたら親子三人、江戸を離れて田舎にでも行こうと、言うが、とんでもない、江戸ものはだから困るとゆらは思う。 おゆらの頭の中には...
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2025年05月20日
玉木屋の女房 〈17〉
少年は、彦次郎といった。小柄だから幼く見えるが、数えで十四だいう。 彦次郎はよく働いた。朝は来る早々、仕事場の掃除をし、それが済むと...
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2025年05月15日
玉木屋の女房 〈16〉
家の中に入った途端に木の匂いがした。 むっとした木の香りが、鼻についてなぜか嫌なものに思えた。一度通りに出て呼吸を整えると、多江はまた...
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2025年05月10日
玉木屋の女房 〈15〉
すべての色いが淡く夕闇の中に溶けていくようだった。黄昏の中に写楽の着ている桃色の着物の裾だけがぼんやりと目の中に入ってくる。 あの人...
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2025年04月30日
玉木屋の女房 〈14〉
多江はあれから耕書堂に一度も行っていない。また店の奥で、背中をまげて蔦重さんと次の役者絵の相談でもしているかもしれない。きっと、店の...
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2025年04月25日
玉木屋の女房 〈13〉
蔦屋重三郎の思惑どおり、写楽という絵師の絵は大評判になった。江戸っ子は目新しい物好きだ。これまでの浮世絵といったら、北尾重政の「青楼...
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2025年04月19日
玉木屋の女房 〈12〉
「まあ、正直で気立てが良いからって、人気が出るわけじゃないからね。人は悪い者に惹かれるのさ。世間でまっとうと思われてる人に限って、役者...
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2025年04月13日
玉木屋の女房 〈11〉
その日も多江は下絵の相談のことで、耕書堂に使い行かされた。ゆらは蔦重が苦手で最近では用事がある度多江に頼むようになっている。日本橋ま...
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2025年04月09日
玉木屋の女房〈10〉
「ああ、こりゃあ、いい版木だ」多江が蔦重の耕書堂に行った翌日、早速店の手代が版木を届けにきた。作治は早速仕事に取りかかった。良い下絵と...