ノベル
わたしの拙い小説のご紹介。
老いとは何か。
わたしたちはどこに向かっているのか。
生きる意味についても考えます。
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2025年05月15日
玉木屋の女房 〈16〉
家の中に入った途端に木の匂いがした。 むっとした木の香りが、鼻についてなぜか嫌なものに思えた。一度通りに出て呼吸を整えると、多江はまた...
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2025年05月10日
玉木屋の女房 〈15〉
すべての色いが淡く夕闇の中に溶けていくようだった。黄昏の中に写楽の着ている桃色の着物の裾だけがぼんやりと目の中に入ってくる。 あの人...
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2025年04月30日
玉木屋の女房 〈14〉
多江はあれから耕書堂に一度も行っていない。また店の奥で、背中をまげて蔦重さんと次の役者絵の相談でもしているかもしれない。きっと、店の...
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2025年04月25日
玉木屋の女房 〈13〉
蔦屋重三郎の思惑どおり、写楽という絵師の絵は大評判になった。江戸っ子は目新しい物好きだ。これまでの浮世絵といったら、北尾重政の「青楼...
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2025年04月19日
玉木屋の女房 〈12〉
「まあ、正直で気立てが良いからって、人気が出るわけじゃないからね。人は悪い者に惹かれるのさ。世間でまっとうと思われてる人に限って、役者...
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2025年04月13日
玉木屋の女房 〈11〉
その日も多江は下絵の相談のことで、耕書堂に使い行かされた。ゆらは蔦重が苦手で最近では用事がある度多江に頼むようになっている。日本橋ま...
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2025年04月09日
玉木屋の女房〈10〉
「ああ、こりゃあ、いい版木だ」多江が蔦重の耕書堂に行った翌日、早速店の手代が版木を届けにきた。作治は早速仕事に取りかかった。良い下絵と...
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2025年04月05日
玉木屋の女房 9
あの男、斎藤十郎兵衛は、痩身をかがめるように歩く一見貧相にも見える男だった。あんなふてぶてしいほど人を食った大首絵を描くような、図々...
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2025年04月01日
玉木屋の女房〈8〉
「ああ、版木かい。それなら、山桜の一枚板のいいのがあるよ。木目が細かくて、彫りやすい。あんたのとこの作治さんのように、丁寧な仕事をなさ...
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2025年03月28日
玉木屋の女房〈7〉
蔦重さんのところはうちと違って活気があるな。それが久しぶりに、耕書堂の店先に立っての感想だった。暖簾を見上げていると、番頭さんらしき...
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2025年03月15日
玉木屋の女房 〈6〉
蔦屋から急ぎの仕事が入ったのはその数日後のことだった。ゆらが店の横にある工房に行くと、作治がいつものように背中を丸めて熱心に彫っている...
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2025年01月10日
玉木屋の女房 5
ゆらがこの家にきたのは、お夏が亡くなって半年もたたないころだった。もともとお夏はできた女で、身持ちの悪い清吉にはもったいないくらいの...