ノベル
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2024年05月11日
ツグミ団地の人々 〈立春前 6〉
篠崎氏の丸い肩がドアの向こうに消えると、麻紀さんはホッとため息をついた。そして里子のほうに顔を向けて言った。「さっき車イスに乗るんで...
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2024年05月07日
ツグミ団地の人々〈立春前 5〉
午前中に片付けておく仕事があり、病院に着いたころ陽は西に傾き始めていた。 駅を出ると目の前に大きな駅前ビルディングがそびえ、くすんだ...
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2024年05月02日
ツグミ団地の人々〈立春前 4〉
昨夜もあの棟にいった。一階のエレベーターホールで前屈みになってメールボックスに一枚一枚入れていると、外から入ってきたジャンパーの男がふ...
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2024年04月28日
ツグミ団地の人々〈立春前3〉
「あ、これ頼まれてたもの」 手さげ袋の中からスーパーのビニール袋に入ったものを取り出す。「まあ、いいキューリね。うまく漬かったら連絡す...
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2024年04月23日
ツグミ団地の人々〈立春前 2〉
その朝、里子はおろし立てのタオルをベランダから落としてしまった。 主婦の一日の気分は、だいたい洗濯物を干し終えるまでに決まる。がっか...
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2024年04月20日
ツグミ団地の人々〈立春前1〉
「変なのよ、あの棟に夜行くと、必ずエレベーターホールで人に会うの」 里子はぼやくともなく言った。 息子の健太が新聞紙の上からチラッと顔...
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2024年04月12日
ツグミ団地の人々〈苦い水19 了〉
杏の花が次々とほころびやがて満開を過ぎたその頃、コーヒーショップつぐみに久しぶりに皆川老人がやってきた。団地のウワサでは皆川はずっと...
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2024年04月08日
ツグミ団地の人々〈苦い水18〉
鶴田平八が脳梗塞で倒れたと美佐子が聞いたのは、その数日後の夕刻だった。 肩を落とした様子で店に入ってくると皆川は、珍しくカウンターの...
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2024年04月03日
ツグミ団地の人々〈苦い水17〉
その日、皆川は開店早々から、カウンターの一番奥に座っていた。なんとなく憂鬱そうな顔である。「どうかしたんですか」美佐子は気になって声...
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2024年03月30日
ツグミ団地の人々〈苦い水16〉
「君たちには、まあ、こんな気持ちはわから ないでしょう」鶴田平八は急に改まった口調で言った。そして、テーブルの上のコップを手にして水を...
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2024年03月24日
ツグミ団地の人々〈苦い水15〉
「僕はときどき考えるのだよ。人間はなぜ土地を離れて移動したがるのか、ということです。そして帰ってからは、なぜ憑き物が落ちたようになって...
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2024年03月20日
ツグミ団地の人々〈苦い水14〉
水戸の御城下の下を流れる那珂川は、このあたりを悠々として流れたあと、数キロ先の那珂湊でさらに広がって海に吸収されている。 城内の侍...