ノベル

  • 2021年12月20日

    抜け道 (25)

     弟が亡くなって数年たっていた。妻はもう花を育てるのをやめていた。彼が仕事から帰ってくると、たいがい妻は電話の横に座っていて、ときどき...

  • 2021年12月17日

    抜け道 (24)

     低いモーター音はまだ続いている。その中に、人の話声を聞いたように彼は思った。布団の上に起き上がると、あぐらをかいて座った。どうやら茶...

  • 2021年12月14日

    抜け道 (23)

     彼は若い男になって、オートバイにまたがっていた。ほとばしる精気が体中にみなぎり、白い光の線を描き彼は走った。周囲はどこまでも紫苑の咲...

  • 2021年12月11日

    抜け道 (22)

     家に戻ると、あら、雑魚ばっかりだね、母親が彼のバケツをのぞき込んでいった。それから弟のバケツを見て一匹の魚を指し、あれは、なんていう...

  • 2021年12月08日

    抜け道 (21)

    ――こう、うまくいってくれればいいのだが。 彼はふいに、俺は死んだのだ、と人々に触れて回らなければすまない気持ちになった。彼は孤独だけ...

  • 2021年12月05日

    抜け道 (20)

     彼は、かつてモンゴルの砂漠で見た夕焼けを思い出していた。鉄錆び色の陽が地平線の向こうに完全に姿を消すと立ってはいられない寒さだった。...

  • 2021年12月02日

    抜け道 (19)

     嫁さんの話は切れ目がない。彼は、うん、うん、と聞いている。ばあさんのほうも彼の家にやってくると、嫁さんの悪口を並べ立てるから、おあい...

  • 2021年11月29日

    抜け道 (18)

     数百年前、このあたり一体はアラカシやシラカシの深い森であったそうだ。いずれ彼がいなくなれば、家の庭も本来の植生に戻るのだろう。彼の先...

  • 2021年11月26日

    抜け道(17)

               女ってのは結婚してしまうとつまらなくなるもんだ。遠藤菊子が帰ったあとの茶の間で彼はひとりごちる。 そのまま、倒し...

  • 2021年11月23日

    抜け道 (16)

     玄関に入ると、下駄箱の上に見慣れたチラシが二枚重ねて置かれていた。遠藤菊子がすぐに出てきて、オーバーに顔をしかめていった。 「お留守...

  • 2021年11月20日

    抜け道 (15)

     それからはセールスマンにも近所の主婦たちにも、家にやって来た人間には残らず鉢植えの花を渡した。強引とも思えるほどに、あるときは必死の...

  • 2021年11月17日

    抜け道 (14)

     弟が亡くなって半年も過ぎると、ようやく落ち着いた生活が戻ってきた。急に電話がかかってきて弟のことを聞かれたり、怪しげな男たちが塀の外...

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