グリーンベルト(24)
「あなたには、○○さんがいいと思うわ」
君江さんがまた、さっきの南米出身の経済学者の名前を言った。
「あなたのこと満更でもないと思ってるみたいよ」
キヨミさんがヒステリックな笑い声をあげた。
「だから、さっきもいったでしょう。彼じゃ年を取り過ぎてるの」
「そうね、一緒にいたら、あなたの若さを吸い取られるかもしれないものね」
君江さんが一寸しゅんとした声で言った。
「ちがうのよ、そんな意味じゃないの。おたがいに、理解し合いたいだけなのよ。あたしが欲しいのは父親じゃないのよ」
「わかるわ、あなたの気持ち」
君江さんがしみじみとした声でいった。
「あなたはどうなの」
キヨミさんが、ちらっとこちらを振り向いていった。急に振られて、私はなぜかドギマギしてしまった。
「よくわからないわね、年が近くたって、理解し合えるかどうかわからないし・・・・・・」
「ふーん」
ふいにキヨミさんが悲鳴をあげた。
「ああー、なんてこと。ヘレンは道を間違えてるわ。あんなとこで曲るんじゃないのに」
キヨミさんは思い切り舌打ちし、アクセルを踏んで加速させる。やがてヘレンの車も気がついたらしく速度を緩めた。
ようやく追いつくと、今度はつながってゆっくりと森の中の道を進んでいった。どこまでも道はまっすぐで終わりなく続いている。まるでこの森から永遠に抜け出せないのではないか、永遠にこの道を走り続けるのではないかと錯覚するくらいに。
州最大のショッピングモールというのは、森の中に突如出現したドームのような白い建物だった。まるでジャングルの奥にある寝殿のような。その横には途方もない広さの駐車場がうねうねと続き、夥しい数の車が陽を浴びて停まっていた。
2022-12-10 by
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