グリーンベルト(8)
「あたしは日本人がだいすき」
ある日ヘレンは、顔を赤らめていった。
「ほんとー、うれしいわ」「日本のどこが好きなの」
私たちは口々にいった。
「そうねえ」ヘレンは考え深そうな顔でいった。
「たくさん、あるけど。まず・・・・・・」
私たちは、ヘレンの口元を見つめた。
「街がきれいなこと」
まあ、そうでしょうね。私たちはなんとなくうなずいた。
「それから・・・・・・」
「それから?」
「電車が、時間どおりにくるところかしら」
「電車が時間どおりに・・・・・・」
私たちは、ため息をついた。
「待っていても、おくれることはまずないわね。これは、すばらしいことよ。日本人はなんてキンベンな人たちなんでしょう?」
私たちはなんとなくバツが悪そうにうなずいた。
「それから・・・・・・」
「それから?」
ヘレンは考え深そうな顔でいった。
「日本人は、とってもしんせつ」
そうでしょう、そうでしょう。私たちは今度こそ大きくうなずいた。
「車を運転していたときに、パトカーに止められて免許を見せてほしいといわれた。でも、困ったわ。たまたま家に忘れてきたの。だから、ニホンゴワカリマセン、という顔で何回も首を横にふっていたら、あきらめて『もう行っていいよ』って。日本人はなんて親切でやさしい人たちなんでしょう」
私たちは、今度こそ深いため息をついた。
おたがいの間にどんな壁があるのか、それを乗り越えられるのかどうかもわからない。
それにしても、ヘレンが日本人を愛する気持ちに嘘はなかったし、わたしたちも心からヘレンを好きだったのよ。
2022-09-21 by
関連記事
コメントを残す