グリーンベルト(26)

 森の中の広場は暮れなずみ、退職者たちの住まいのようなこじんまりとした家々の窓から弱い明かりがもれていた。
車の音を気にしたのか八〇歳過ぎのおばあさんがよちよちと家の中からポーチに出てきて、こちらを凝視していたが、ヘレンの姿を見て安心したのかまた家の中に戻っていった。

 木々の梢の先だけが夕焼けのオレンジ色に染まっている。空はまだ透明な明るさを残しているけれど、森の中にはどっぷりと夜のとばりが覆っている。木の根元の辺りはもう真っ暗で木と気との境目も曖昧だった。手前にある低木だけがたくさんの白い小さな花を浮き上がらせている。花の匂いは夕暮れの景色の中でさらに濃くなったようだ。
「変ねえ、ボブが出迎えてくれてもいいのに。愛する奥様のお帰りだというのに」ヘレンは一寸口をゆがめて笑い、家のドアを開けた。

 家の中にボブさんの姿は見えなかった。新婚の教師夫妻も、南米生まれの経済学者もいない。部屋には私たちだけだった。
「ボブ! どこにいるの」
 ヘレンについてキッチンに入っていくと、流しの横に、昼に使った皿やコップやガラスのサラダボールなどがきれいに洗われて、種類ごとに積み重ねられていた。
「ボブがやっておいてくれたのよ。でも気にしないで。夫の大事なお客の時は、あたしも同じようにするんだから」                   

 

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