グリーンベルト (10)

「感謝祭はアメリカ人にとって、特別なお祭りなのよ」
 ヘレンは顔を赤らめて言った。
 それから彼女が話したのは、ピルグファーザーズについてだった。

大西洋を渡った百80トンの帆船メイフラワー号。3か月の過酷な航海で半数以上の清教徒が餓え、   病に倒れて死んだ。十二月21日、新大陸のニューイングランド上陸。

その地を、出港した港の名と同じプリマスと名付けたこと、ニューイングランドの冬の森での生活。食料は底をつき、最初の年に101人のうちの半数がなくなった。

その時、手を差し伸ばしてくれたのがインディアンだった。食料をあたえてくれ、春にまく種を分けてくれた。育て方も教えて暮れた。秋が訪れ初めての収穫を手にすると、彼らは神に、インディアンたちを招いてごちそうを食べた。生き延びることができたのは、まったくインディアンのお陰だったから。

 ヘレンがスープを温めにキッチンに行ったあと、だれかが耳元でささやいた。
「それほどお世話になったのに、なぜインディアンを自分たちの栃から追い払ったのかしら」
 でも、訊いてみようとはしなかった。人とのおつきあいってそんなもんでしょう。だれも本当の気持ちなんて言わないものよ。

下船しプリマスに降り立った黒い人影の群れ。そして、海辺にバラバラに立って荒寥とした暗い冬の森を見上げている。
 寒さ、餓え、恐怖、信仰心・・・・・・どれもが過剰すぎて、ふとヘレンに目をやると、祖先への思いに胸がいっぱいで、ものも言えず、愁いを含んだ目の下の頬には微かに赤身がさしている。その顔を急に上げるとヘレンは言った。
「彼らの子孫なのを、あたしは誇りに思ってるわ」

  

      

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