グリーンベルト (6)

       

 ホワイトハウス前の緑の多い公園を足早に横切っていく。銅像の下の片隅に男の人がうずくまっているのが見えた。顔は汚れ人種の区別もつかない。

「まあ、アメリカ人のホームレスなんて初めて見たわ」

 君江さんが感極まるようにいった。わたしも肯いたわ。その通りなのだから。私たちはなるべく見ないようにと足を速めた。を

 公園の向こうからさまざまな人種の特徴をもった人々が、大勢こちらに向かって歩いてくる。数人インド人女性が色とりどりの薄物のサリーを肩にかけのんびり歩いてくる。

「きれいねえ」
 君江さんがサリーに目を奪われて立ち止まる。葉子さんは止まらずにスタスタと歩いていく。
「待ってよ」君江さんが言う。
「あたしを迷子にするつもり。置いて行かれたら、一年後にはホームレスだわ、日本人女のホームレスでも仲閒に入れてくれるかしら。あの人たち」
「つまらないこと言ってないで、急ぎましょう」あたしはいった。
「きっと食べ物とか難しいわよ。無理なんじゃない」
 私はますます無責任にいった。

「あら、あたしは何だって平気よ。米のご飯が食べたいなんてそんなこと言わないわよ」

「あら、あなたの家は毎朝ご飯だって言わなかった?日本にいるとき」
「日本にいる時ね。それは、これはこれ。それにご飯が食べたいっていうのはうちの亭主なのよ」
「やさしいのね、君江さんは」
「あら、亭主は自分で作るのよ。自分の好きな味付けにしたいってわたしは料理が苦手だから」
 君江さんは少し恥ずかしそうに言った。

「人には2種類あるんですってよ。料理の好きな人、掃除の好きな人」
 葉子さんが振り向いていった。
「あなたはどちらなの」
 私は葉子さんに聞いた。

「掃除に決まってるわよ」
 きっと、そうだろうなと思っていたわ。
「あたしは、部屋の中が汚いとだめねえ、落ち着かないのよ」
「そう、それはいいわね」
私は慌てていったが、そのとき思い浮かべたのは、うちのテーブルの下に浮いている綿ゴミのことだった。そして、掃除好きの親戚の女たちのことだ。彼女たちは掃除が行き届くことと、手先が器用なことを最大の女の価値と考えていた。

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