眠り草 (13)

いよいよその日が来る一週間前に、健司と美咲に手紙を書いた。電話なら簡単なのにと思いながら、なぜか電話で話す気にはならなかった。

そして。手紙を書くなんて何年ぶりだろうと思った。

「皆さん、お元気ですか。まだ三月もたっていないのに本当に長く合っていない気がします。これまで、私にいつもやさしくしてくれて本当にありがとう。あなたたちに会えて幸せでした。
 私がこの病気になったと知った日にも、やさしい笑顔で私を気遣ってくれましたね。でもそれがかえってつらくて数年以内に必ず訪れるその日まで、その笑顔に応えていられるか自信がなくなったのです。
 家を出たいと、わがままを言ったときにも、あなたたちは気持ちをわかってくれて、つてを頼ってここに入れるようにしてくれた。 どんなにつらかったかと思うと申しわけない気持ちでいっぱいです。これはわたしのわがままな気持ちから決めたことですから。
 でも、やっぱりよかった。痛みはだんだんひどくなってきて、夜には耐えきれないほどのこともあります。最後に悲惨な状態になって世の中や家族に恨みや泣き言を言いながらその日を迎えたくなかったのです。
 ショパンのピアノ曲でも聴いて、最愛のお二人の顔を思い浮かべながら最後のその時を迎えたいと思ったのです。そしてここに来ても簡単ではなかったけれど、二人の医者と三人のカウンセラーとも何度か話し自分の決意が変わらないことを話しました。

そして責任者も交えて話し、ついに手続きをしてもらうことになりました。でもこれは正規の手続きではないし、依然として秘密なのです。でもね、きっといずれ、だれでもこれを選ぶことができるようになると思いますよ。だってこの国に若者は少ないのに、高齢者はこんなに大勢じゃないですか。それで私のように満足できる人間もいるんだから大助かりでしょう。
 おばちゃん、また悪い冗談をいってると思うでしょうが、私は本気ですよ。

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