6年ぶりの長編『サイレントシンガー』(小川洋子)透きとおった無音のような歌声

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サイレントシンガー  (小川洋子 文藝春秋)

6年ぶりの長篇小説。小川洋子ワールドを堪能できます

主人公リリカは早くに母を亡くしお祖母さんに育てられます。お祖母さんは、決してリリカに髪を伸ばさせませんでした。それは、リリカの母、つまりお祖母さんの娘がリリカがまだ赤ちゃんの頃に夫に捨てられたことを悲観してお下げにした自分の髪を使って自殺したからです。

このように最初の設定から悲劇的な内容になっています。やがてお祖母さんは生活のために、内気すぎて人と話せず、集団で暮らしている、内気な人々の会〝アカシアの野辺〟の雑用係として働きます。この会の人々は声を出して話すことをせず、十本の指を使った指言葉でつつましく会話をします。

不思議に思ったことをひとつ

ひとつ不思議に思ったことがあります。
言葉のプロである作家が、言葉を使って話すことのできない人々を。物語の中心に置いたというのはどういうことでしょうか。言葉を使って話すことなど意味がない、沈黙の中にこそ人間の真実が表れるということでしょうか。
そんな沈黙の重さ、沈黙の意味について深く考えさせる作品でもありした。

リリカが最初に覚えたのも手文字

リリカもおばあさんが働いている間、休養室専任のおじいさんに面倒を見てもらいます。だから、最初に覚えたのも、声に出す言葉でなく手文字でした。この沈黙の静けさはこの小説のひとつのテーマにもなっています。

やがて、リリカは歌を習うようになります。
その歌声は透明感のある不思議な歌声でした。毛を刈られる羊たちの心をなだめ、夕暮れ時、町役場の拡声器から流れる『家路』のとぎれとぎれの小さな歌声は家路に向かう人々の心を和ませました。
そして動物、ぬいぐるみの声、シンガーのための仮歌と、さまざまなところにリリカの歌声は使われました。

声を持たない人々の歌声・・・?

けれど彼女自身が脚光を浴びることはありません。透き通った無音のような歌声は、まるで声を持たない、〝アカシアの野辺〟の人々が歌っているようです。
やがてリリカは〝恋〟をします。二人が散歩するのは森の中、そこにはおばあさんが木や歯ブラシ、その他諸々のもので作った何十体もの人形がいます。

この森で歌うシーンがありますが、まるで人形たちが聴いているかのような、幻想的で美しい情景が浮かんできます。人間の造るものは皆、どこかもろい。けれど、最初から弱く見える者が本当に強いのかも知れません。いろいろなことを感じさせる小川洋子作品です。

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。

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