短編集「彼女の部屋」(藤野千夜 講談社文庫) 表題作ほか、8年前亡くなった父がいきなり茶の間に座っている「父の帰宅」など

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「彼女の部屋」(藤野千夜 講談社文庫)
芥川賞作家 藤野千夜の少し前の短編集です。

「彼女の部屋」
親しくないのに部屋に誘われる

表題作の「彼女の部屋」は、1、2回会った程度のそれほど親しくない人に、家に誘われ少々困惑しながら訪れる話しです。

人と人との関係は、今は特にどの辺までが親しくて、踏み込んで良いのか迷いながら、つき合ったりします。それはお互いにそうなので、そんな心の揺れが部屋を訪れるということの親密性と、たがいの距離感との間で揺れる心の動きが面白い作品です。

「父の帰宅」
亡くなった父が茶の間に座ってる

特に好きなのは三つ目の作品「父の帰宅」です。
最初、群像に掲載されているのを読んだときは衝撃でした。そして、不思議で不思議でたまりませんでした。

主人公のともえが母親から連絡を受けて、実家に帰ると8年前に他界した父が家にいて、茶の間に普通に座っているのです。しかも双子の兄弟だとか、身体が透けて見えるとかでなく、まさしく亡くなったころのすがたのまま、ごく自然に茶の間にいるわけです。

困惑と家族愛の間

ここで何ら技巧を労さず、そこに生身の父が出現してしまうということの凄さ‼ 清々しさ。
しかも、母親はウキウキし、兄嫁はいかにも感動したように涙を流し、嬉しいは嬉しいけれど、困惑しどう話しかけて良いか分からないともえ。

困惑と混乱が、茶の間という日常生活の中で、ぬるまったお茶のように中和され、父のいることに慣れ、やがて、普通の日常になっていく。
「なんだ、もとの生活のままでいいじゃない」
と、思い始めた頃。きたときと同じようにいきなり父はいなくなる。

こういうストーリーなのですが、「世にも奇妙な物語」ばりに不思議な話なのに、家族全員が日常の家庭生活の中にいるというのがとても不思議な小説に思えました。
ひょっとして、家族愛の物語、といえば言えるのかも知れませんが、それを決して前面に出して感動させようなどとしないところが、この作者の凄さだと思います。

宜しければぜひ読んでみてください。

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いで

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