グリーンベルト (46)

夕方しょぼしょぼと雨が降り続いていた。今日はまだ、恵子さんが来ない。

「変だね、時間をとっくに過ぎてるのに」
夕暮れるのが早くなって、部屋から見える隣の棟は、薄闇の中にそびえ、薄暗い階段にポツンポツンと蛍光灯が点き始めて。壁もアスファルトの道も濡れてぼんやり明かりを灯した団地の棟が闇の中にぽつんぽつんとそびえ、背後から暗い森がかぶさって見える。

 このあたりは低地に森がつらなった谷戸の地形で近くには、敗者の集積所と工事用車両の駐車場がある。そして細い煙を空にたなびかせている廃棄物処理場。政令市零都市のどんづまりのような所なのだ。

 盛りの辺りでふいに叫び声が、長く尾を引いて聞こえてきた。ケモノの叫び声のようだ。中学生たちがまた、森の近くのどこかに集まって騒いでいるのだろう。

 遠くにヘレンの家がかすんで見える。今は住人の居ないその家を、私は今もヘレンの家と呼んでいる。この団地を包む森などたかが知れている。建物の切れた先にはすぐにほかの団地が現れる。けれど森がもともと人間とは相容れず、スキあらば人間を地の底に沈めてやろうという悪意をを秘めているとしたら・・・・・・。

 でもこの家は明るい・・・・・・と私は気を取り直す。ヘレンの家の暗さと比べなんていう明るさだろう。鵜網は完全に押しやられている。
 ふいに背後でガサリと音がし、私はギョッとして振り返った。大型冷蔵庫が製氷皿の氷を一気に下の容器に落としたのだ。

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