眠り草 (14)

 それに、贅沢をさせろといってるんじゃないんです。好きなものに囲まれてつつましく最後を迎えたいといってるだけなんです。そして、もし、あなたたちが来てくださったら、もう一度お会いできるのにな、と思いましたが、これは老人のわがままなので無視してくださって結構です。

 どうぞもう私のことは気にせずに普段通りの生活を送っていてくださいね。きっと全部済んだ後で、知らせが届くでしょう。そして、その時もどうぞ泣かないでくださいね。少しでも私のことを思い出してくれたらそれで充分です。これが私の最後のお願いです。
 これまでよくしてくれて本当にありがとう。くれぐれもお身体を大切にしてくださいね」           

 書き終えたあと、聡子はふっとため息をついた。それからいつかの夜、佐々木マネジャーと共にあの部屋に行った日のことを思い出していた。

 ドアを開けると青いカーテンのかかった部屋の中央に、金属でできた小さな宇宙船のようなカプセルのようなものが置かれていた。
「これなんですね」

 聡子はなぜか身震いした。
「そこに横になってるだけでいいんです」
 佐々木マネジャーは冷静にいった。
「そうですか。音楽は?」「え?」「かけてもいいの」
「もちろんです」佐々木は大きくうなずいた。「お聴きになれますよ、いくらでも。まあ、途中で意識が遠のかれるかもしれませんが」

「それはそうね」

「CDなり、保存したお好きな人の声を、耳元でかけておくこともできます。あらかじめお渡しいただいていれば、あそこに・・・・・・・」と佐々木は金属のカプセルを掌で指していった。
お入りになる少し前からセットしておきます」
「それはありがたい」聡子はいった。
「それから」
 佐々木マネジャーは事務的な声でいった。

「点滴のスタートの時はご自分でなさってくださいね」
「ええ、だれにも負い目を負わせたくないですものね」
「わかっていただけて嬉しいですわ」佐々木マネジャーは微笑んだ。
「それで、その時付き添いの方は・・・・・・」
「あたし一人で大丈夫です」
「ご親戚の方たちは見えませんの?」
 佐々木マネジャーの顔が微かに曇った。
「みんな忙しいんです。きっと来れないでしょう。わざわざ時間を割かせたくないんです」
 聡子は自分にいい聞かせるようにいった。

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