抜け道 (7)

 路地を出ると駅のドーム型の屋根が見え始める。
 キン、コン、カン、けたたましい音をさせて遮断機が彼の目の前で下り、快速電車が長い車両を軋ませて走り抜けていった。
 最後の車両が構内に吸い込まれると、遮断機は再び上がり、彼は人の波に混じって線路をまたいでいった。
 このあたりは、私鉄電車が敷かれてからの新しい街並みだ。

 駅を右手にした三叉路の角に、いつの間にか白い看板を出した新しいコンビニができていた。店の前に缶ジュースやたばこの自動販売機が並び、数台のオートバイがとまっている。
 少年のような若い男たちがてんでに数人ずつ固まって、缶ジュースを飲んだり、地べたにしゃがみ込んで煙草を吸ったりしていた。

 だぼだぼのシャツや膝までのズボン、裾を引きずるようにはいている者もいた。一人の少年が尻ポケットに手探りで財布を押し込もうとして、なかなかうまくいかず、彼はズボンがずり落ちてしまうのではないかとはらはらした。

 弁当を食べていた少年が、急に振り向くと、オートバイにまたがっている少年に何か声をかけた。

 オートバイの少年は、青いアロハシャツのようなものを着て、肩まで腕まくりし、ばさばさした赤茶の髪に折った白いタオルを巻きつけている。たった今まで、肉体を使って労働していたのを誇示するように、少年はハンドルに手を置いて前方を凝視している。
 信号はなかなか変わらない。
 少年たちの様子を見るともなく見ていると、バイクの少年が、見とがめるように彼に視線を移し、ちょうど青信号に変わったところで、彼は少々急ぎ足で横断歩道を渡っていった。

 整備された駅前広場の中央には、ブロックで囲った植え込みが配置され、それを中心に赤茶けた敷石が放射状に広がっている。いくつか置かれたベンチが、打ち放しのコンクリートの地肌を見せている。

 その一つに男が顔を上に向けて横になっていた。浮浪者かと思ったが、そばによるとサラリーマンのような身なりの中年男で、背広に大きな泥汚れのようなものが付いていた。
 
 すえた臭気があたりを覆い、男は動かない。死んでいるのだろうか。
すぐ横を通ると、腹のあたりがふうふうとかすかにふくらんではまた下がっているのに気づいた。

 コーヒー店の横に、いくつかのテーブルといすが置かれ、淹れ立てのコーヒーの匂いがしている。
 彼は急に疲れが出て、そのひとつに腰を下ろした。アメリカンコーヒーを頼み、店先に置いてあった新聞を広げて読み始めた。頭の上に日よけのパラソルが広がって、雲の間からようやく薄日が差し始めていた。

 二人の女が、隣のテーブルに向かい合って座っている。
 彼にはその女たちが、普通の主婦なのか、それとも何か特殊な仕事に就いている女たちなのかまったく区別がつかなかった。
 ――少しは、楽しいこともなくちゃつまらない。
 ――そうよねえ。生きてるかいがないわ。

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