雛祭りのお膳。枇杷をしゃぶる夫(武田泰淳)はひょっとして指まで食べてしまった・・・?武田百合子の描く食べ物の情景は懐かしくどこか怖い
こんにちは、ゆきばあです。毎日ブログを更新しています。
「ことばの食卓」(武田百合子 ちくま文庫)

独特の凄い感性で書かれているエッセイ集です。
作者の竹田百合子の夫は武田泰淳。
小さいときに母を亡くし遠縁のおばあさんに育てられる作者。食べ物に結びついたテーマが多い。
小さいときに飲まされた牛乳、風呂の中でムッと吐いて風呂の湯を白濁させる。
枇杷を食べる夫(武田泰淳)、鎌首のような太い指で口に運ぶ。だらだらとこぼれる汁。作者は、ひょっとして夫は指まで食べてしまったのではないかと危惧する。
雛祭りの日、
「おばあさんがお膳を運んでくる。着物の腰に隠れて、あとから弟が二人入ってくる。
おかゆと、甘辛く煮びたした渦巻き模様の焼麩と、しらす干しと、おかか。それに干しあんずの含め煮が一個。」
暗い日本家屋の一室で、おばあさんの作ったちまちました料理に向き合う小さな武田百合子さんの姿が絵画のように浮かんでくる。
この面倒を見てくれた遠縁のおばあさんだが、やがて、
「老人性ヒステリーが嵩じてきたおばあさんが縁者の家にひきとられていったのは、私が女学校に入って間もなくの頃だったと思う。それからは、お雛様を飾らなくなった」
ほか、「怖いこと」「京都の秋」、さらに「上野の桜」もおもしろい。
「老人ばかり一二,三人が輪になって、のろり、のろりと踊っている。――さよおならあ/さよおならあ、好きになったひとぉ・・・。まん中でよろよろと式の真似をしているおじいさんの顔は真っ赤だ。」
ちょっと崩れた感じになって、桜の下で花見をしている老人たちの姿態が目に浮かんでくるようま文章です。
「桜の下に死体が・・・」といったのは梶井基次郎だが、熟れた満開の桜の下で踊る老人たちの姿を、散っていく桜の花のようにはかなく禍々しく書き切っている。
食べ物、老人の姿、そして夢の中に現れてくる奇妙な何ものか。それを表現することばすべてが詩に収れんされていく。そこが武田百合子さんの感性の凄いところなのだろう。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。










