「編めばば編むほどわたしはわたしになっていった」 (新潮文庫)三國万里子 (著)
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「編めばば編むほどわたしはわたしになっていった」 (新潮文庫)
三國万里子 (著)
少し前に亡くなった詩人、谷川俊太郎や作家の吉本ばななが帯で絶賛している。
「編む指と書く指が一つになって生み出す日々の模様の暖かさ」谷川俊太郎
作者は、編み物作家。文章を読んでいるとまるでひとつひとつのモチーフを編んでいくような手作り感がある。
編みものをしている時というのは、不思議な時間である。過去のいろいろな思い出、情景が頭の中にふいに浮かんできたり。そんな時間に浸るために編み物をする人もいるだろう。
作者も、頭の中に過去の記憶をさまざまに思い浮かべているのだろうか。そして、そんなモチーフのような記憶の断片を、網目を数えるように丁寧に私たちに見せてくれている。
家族旅行、息子のインフルエンザでの入院、大好きな叔父の話、おじいさん、おばあさんの思い出もその情景が浮かんでくるようなやさしい筆致。
そして山奥にある温泉旅館での住み込み体験、ああ、あんなこともあったな、と、自分の身に鑑みて、過去を思い出す方も多いのでは・・・・・・。
そんな繊細な手ざわり感が、なんともいえない味わいのエッセイです。
また、読んでいると、叔父や叔母や祖父母や姉従兄弟の顔や、ある瞬間の記憶の断片がふいに甦ってくるという幸福感を味わえる。
また記憶は、ときに苦く、甘酸っぱいものである。
「この時私は自分という生き物になるために繭を作っていたのかもしれない。薄い皮膚が折れ出しそうな中身を守るために」
中学生の時、みんなと一緒にいることに気苦しさを感じて、昼休みには庭に行ったりして1人で過ごしたという。きっと、こんな気持ちに深く共感する人もいるだろう。
編み物をするのも、書くのも、そんな記憶を思い起こしては作品の中に編み込んでいく作業なのかも知れない。
是非手に取って読んで見てください。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。

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