グリーンベルト (37)

どうしたの。あなたすごく顔色が悪いわよ」
「なんでもないんです」
「知り合いの方かなんか、外にいたの」
「いえいえ、だれもいませんよ。風が強く吹いてびっくりしたんです」
「そう」
「あたし、風大嫌い」
「まあ」私は驚いて叫んだ。
「あたしも風嫌いよ。一緒ね。ふふ」
「そうですね」
 恵子さんが下を向いて、サヤエンドウの筋を取りながら言った。明日の朝のお味噌汁用なのたという。結局、何に驚いたのか恵子さんは最後まで話してくれなかった。

 ワシントンD.C.に滞在するのも、あと残り二日になっれしまった。
 その翌朝、身支度を整えると下りのエレベーターに乗った。私たちは朝は比較的機嫌がいい。昨夜の諍いのことなどおおかた忘れている。

 一階はすでに旅行客たちでいっぱいだった。南米のビジネスマンたちが大きなトランクを床にこすりつけるようにして持ち運び、ビブラートのかかったような声で何かしきりと言い合ったり笑い彼女は合ったりしている。
 フロントの女性がまるで詩を書くように大げさにペンを動かして何か書いている。
 一番奥の窓際の席に私たちは座る。褐色の肌のウェイトレスが走るようにして私たちのテーブルに来る。昨日、葉子さんがチップをたくさん渡したからだ。コンプレックスのせいなのかついつい御ぽく渡してしまう。チップの適切な金額、というような本を持ってくればよかった。

「コーヒーはありますか」
「ええ、もちろん」
 彼女は満面の笑みで答える。厨房のそばに立っているときも、ときどき私たちの方を見て笑いかける。何しろチップ・・・・・・いや、日本人が好きなのかもしれない。
 インド系の旅行者が大勢でガヤガヤと何か言い合いながら横を通り過ぎていく。二人は卵料理とパン、私はコーン夫ラークを食べている。朝食で特筆すべきことと言ったら、なんと言ってもコーンフレークと果実類の種類の多さだ。そしてここでも、ガカモレソースをかけたサラダ。

「ヘレンのと、どちらが美味しいかしらね」
 君江さんがたっぷりのサラダにソースをかけながら言う。
「どちらも同じくらい美味しいわよ」
「ほんとね。やっぱりヘレンは料理が上手だわ」と葉子さん。
「ああ、分量を聞くのをまた忘れたわ」
 私が叫んだので、まわりの客たちの目が一斉にこちらに向いた。

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