窓の外に霧のわき出てくるところが印象的な「ミラノ霧の風景」(須賀敦子 白水ブックス)
こんにちは、ゆきばあです。毎日ブログを更新しています。
須賀敦子さんの最初に書かれた作品で、講談社エッセイ賞、女流文学賞受賞作の「ミラノ霧の風景」は、何度読んでもその文章の美しさに感動させられます。全体が12の章で構成されています。

『ずうっと肺臓の奥深くまで』
最初の章は「遠い霧の匂い」。
日本に戻られてからもよく、霧が出ていると思い出す情景があるそうです。
「ミラノ育ちの夫は、霧の日の静かさが好きだった。・・・・・・『ずうっと肺臓の奥深くまで』吸い込むとミラノの匂いがする、という方言の歌を彼はよく歌った。」
ひどい音痴だったので、その歌はまるで「頼りない雲が空をわたっていくよう」だったそうです。
そして、霧の日に須賀さんがよく作ったのがポレンタという北イタリアの料理。
トウモロコシの粉を水でといたものを鍋に入れて火にかけ、練りに練って作ったお料理だそうですが、仕事から帰ってきた夫は、ドアを開けるやいなや「あ、ポレンタだな、いい匂いだ」といって台所に入ってきたそうです。きっと、夫にとってはおふくろの味だったのでしょうね。
このような情景がとても心温まる素敵なエッセイなのです。

映画「鉄道員」のような情景も
夫は鉄道員の官舎そだち。
決して芸術や、ファッションなどに代表されるような華やかな生活ではないものの、霧の多いミラノの街で庶民として生きてきた人の感覚が伝わってくるような描写が多く、時として胸が締めつけられるような気持ちになってしまいます。
なぜ切なく感じるのか、自分でもよくわかりませんが・・・。
国境を超えた人の生活が伝わってくるからでしょうか。
そして、次も私のたいへん好きな部分です。まるで詩のようだと思いませんか。
「だいたいは十一月になると、あの灰色に濡れた、重たい、なつかしい霧がやってきた。」
これもあまり詳しくないので、はっきりとはいえませんが、イタリアでは一時期キリスト教と政治が強く結びついていたそうです。夫婦は、その後、ミラノでちょっと政治的で個性的な本の並ぶ書店の活動にに関わります。(「コルシア書店の仲間たち」を読んでみてください)
そこの責任者が神父さまというのも独特ですね。また階級意識の強かったイタリアの古い貴族の家に招かれたり、その家がまた何百年も前の石造りのアパートだったりと、興味深い記述が続きます。
夫は若くして亡くなりますが、何かの雑誌で拝見したお写真では、とてもハンサムで知性的なイタリア人青年でした。

いくつかの章をピックアップすると
・遠い霧の匂い
・ナポリを見て死ね
・ガッティの背中
「コルシア書店の仲間たち」に登場するガッティの死の知らせを日本で聞いたところから始まります。
・きらめく海のトリエステ
イタリアを代表する詩人、ウンベルト・サバについて。
・鉄道員の家
・アントニオの大聖堂
どの章を読んでも、ミラノの街の歴史、庶民の生活、色濃く残る貴族階級の意識などがない交ぜになり、そこに漂う重たい霧が独特の雰囲気をつくりあげているエッセイです。
その霧は多分須賀さんにとって、若くして亡くなった夫の記憶と深く結びついているのでしょう。
やわらかくて格調高い文章も魅力です。
また、イタリアの上流階級と共につましい鉄道員家庭の生活なども紹介され、昔のモノクロ映画で見たような世界にも心打たれます。
ほか、この2冊も私の大好きな本です。

いずれにも命に対する慈しみと尊敬があり、さらに須賀さん流の人間観察が加わって作品を味わい深いものにしています。
エッセイというより、小説のような・・・。ぜひ手に取って読んでみてください。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。

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