ツグミ団地の人々 〈小鳥が逃げた6〉
小鳥が家に来た日のことは、奈々もよく覚えている。幼稚園で同じさくら組の坂井くんがある日、奈々のそばに来ていった。
「インコのヒナがさ、卵からかえったんだぞ」
「インコ?」
「小鳥なんだ、しらないの。すごくかわいいんだぞ」
「ふーん」
「見にくる?」
というわけで、その日の夕方、幼稚園から帰ると、ひとつ置いた隣の棟まで行ってインコのヒナを見せてもらった。
「かわいい・・・・・・・」鳥カゴに顔を漬けるようにして見ていたという。
奈々は家に帰ってからも、ヒナがいかに可愛いかったかを話し、それを聞いた坂井くんのお母さんが、ヒナを分けてくれることになった。
数日後、坂井くんのお母さんが、小さな鳥かごに入れて二羽のヒナを持ってきてくれた。
「二羽もいいのかしら?」美佐子は一寸驚いてきいた。
「ええ、うちはもういっぱいだから、もらってくれると助かるわ」
坂井さんは笑いながらいって、、用意してあった大きな鳥かごの中に慎重な手つきで雛鳥を移した。
「少し大きいのがオスで弟、小さいのがメスでお姉さんなのよ」
「どうしてわかるの」
「だって生まれたときから見てるからよ」
そう言って、坂井さん笑った。
「ちゃんと育てられるかしら」美佐子はいった。
「大丈夫よ」
「奈々ちゃん、世話をよろしくね」
坂井くんのお母さんが、香那の方に手を置いていった。奈々は小鳥を見ながらうなずいた。
二羽は一つのカゴの中で育った。
一つの餌箱からエサをついばんだ。たくさん食べるのは弟の方だった。姉鳥は一一日のほとんどの時間を、止まり木の上でひっそりと羽根を休めている。そして半年ほどもすると弟の体は姉より一回りほども大きくなった。弟はカギ状のしっかりした爪で体を支えうつらうつらした。
そして目を覚ますと、思い出したようにエサ箱をつつき、止まり木ててを横に跳ねて隅っこにいる姉の方に移動した。チュンチュン。弟は小さく優しく鳴いて小首を傾け、自分のついばんだエサを口移しに姉鳥にあたえた。姉鳥は首をかしげエサを受け取った。
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