グリーンベルト(23)
「わかる? ショッピングセンターを見せて自慢したいのよ。でもまだ、道もよくわかってないの。彼女一人じゃ無理だわ」
そうかもしれない。フリーウェイでのアクシデントを思い出せば、ヘレン一人の車では心許ない。ヘレンは決してもう若くはないのだ。キヨミさんは腕時計をのぞき込んだ。
「じゃあ、すぐに出かけましょう。それなら間に合うわ」
「そうね」私たちはうなずいた。
「レッツゴー」
キヨミさんは立ち上がり、方向指示噐のように腕をまっすぐ前に向けら。
「すぐ近く」のショッピングモールにはたどり着かなかった。もう30分も森の中のまっすぐな道をひたすら走り続けている。まるで、このフリーウェイには終わりがないのじゃないか、と思えるくらいだ。数台前をヘレンの車が走っている。キヨミさんの車が先立ったのが、何車線もの道の途中で入れ替わってしまったのだ。
ハンドルを握って前を見ながらキヨミさんは言った。
「夫がいなくなって最初の一年は何も思わなかったのよ。だけど2年目かrあ急に寂しくなって、ボーイフレンドもできたんだけど、3か月しか続かなかったわ」
「まあー、どうしてなの」君江さんが言った。
「彼は知的な女性が好きだったの。ベッドで本を読んでるようなね。でもあたしはアウトドア派。外を歩き回る方が向いてるの。よく悲しそうな顔で訊かれたわ。どうして、本を読まないんだい、って。そのたびに、一寸すまない気持ちになって、疲れちゃったのよ」
キヨミさんは自嘲するように声に出して笑った。
「私は本ばかり読んでる男の人はキライよ」
君江さんが言い、私も大きくうなずいた。キヨミさんはそれに対しては、特に何も言わなかった。
2022-12-03 by
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