「あちらにいる鬼」(井上荒野 朝日文庫) 「作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時 作者は五歳だった」と寂聴さん

ゆきばあです。毎日ブログを更新しています。
「あちらにいる鬼」は井上荒野作、先日亡くなった瀬戸内寂聴さんと、作者の父・井上光晴、母、この3人をモデルにした物語。
作者が5歳の時から、白木(井上光晴)と長内みはる(寂聴)は愛人関係になっており、この3人の関係を、長内みはる、母、それぞれが「私」を語る形で進行する。
考えてみるとずいぶんスキャンダラスな話なのに、この二人の女性の語り口は終始冷静・・・・・・というか表面上平静を装って書かれている。
ただし間にいる男性、井上光晴(作家)は嘘つきとしてそれぞれの女性に認識され、その嘘つきで浮気性の男を愛する苦しみが淡々と語られることで、より深みにはまっていく感じがすごい。静かなるスリルに充ちた小説。氷の下に熱い炎が燃えたぎっているといえるかもしれない。
「わたしたちはほのめかさなかったし、探り合いもしなかった。白木の嘘吐きぶりを話題にし、笑い合いながら、わたしたちはわたしたちの愛については、注意深く何も語らなかった。」(長内みはる)
取り乱さず美しく微笑みつづける白木の妻。その内側になにがあったのか。また白木がそれを知っていたのか小説では明らかにされていない。
長内はるみの小説の中にさまざまな姿で現れる白木らしい人物。愛なのか、性(さが)なのかわからないけれど、それが一人の人間を思うということなのだろう。愛とは関わり続けること・・・・・・? そして苦しみ続けることなのか。よくわからない。
作者は、モデルにした父、母とは終始距離をおいて書いている。それだけに最後のところで静かな哀しみが一気に襲ってくる。ここの描写がすごい。
生前、瀬戸内寂聴さんは本書を「モデルに書かれた私が読み 傑作だと、感動した名作」と絶賛したという。
ここにも不思議な愛の形を見るようだ。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけたら幸いです。

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