千日劇場の辺り ―奇妙な案内人〈3〉
正木氏と別れた後、美佐江は大通りを海側に向かって歩いていった。まじめな正木氏と会ったあとは。いつも少々疲れてしまう。それは善良な正木氏に自分の本性が知られては困るという怯えの感情である。
通りは風が吹いて埃っぽかった。しかも4月にしてはだいぶ日差しも強く、心なしか早足で歩いていたので鼻の頭にうっすらと汗をかいていた。
「こんな暑いところをぶらぶら歩いていたら駄目だわ」
言い聞かせるように自分にいうと古い石造りの大きなビルの側面にぽっかり空いた、洞窟のような地下道の入り口に入って行った。
ビルの地下は薄暗かった。古い石の壁にはところどころヒビが入っていて、天井まで伸びているところもあった。だれにも人に会わなかった。あたりに、ぼんやり薄明かりを点けた理髪上がガラス越しに見えた。
そのとき美佐江は、このビルが間もなく取り壊しになるという記事を新聞で読んだのを思い出した。まさか、もう取り壊しが始まっているのだろうか。美佐江は急に怖くなり右に折れて、入ってきた方角とは反対の方に急ぎ足で歩いていった。
通路の両側の壁は湿気を帯びていて、水滴でも付いていそうに見える。天井では、ヘリコプターの翼のような扇風機の羽がどこからともなく吹いてくる風に煽られるようにゆっくりと羽を動かしていた。
通路の両側の店や事務所にはことごとくシャッターが降りていた。外からの明かりが降り注いでいる階段が左手に見えて、そこを上って行くと踊り場になったところにベンチが置かれ、スーツを着た若い男が座ってパンを食べていた。
美佐江はハッとして足を留めた。男はもっと驚いたようだ。片手にパンをもっとまま美佐江の顔を見つめている。視線に耐えられず美佐江は訊いた。
「出口はこちらですか」
男はパンを持ったまま微かにうなずいた。本当に訊きたかったのは、「パンおいしい?」「あなたはなぜそんなところでパンなんて食べてるの」とそういうことだった。

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