ありふれた日常を送る人々の何気ない哀しみやアンバランス感。人生へのしみじみとした手触りを感じさる短編集「当世凡人伝」(富岡多恵子 講談社文芸文庫)

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こんにちは、ゆきばあです。毎日ブログを更新しています。

「当世凡人伝」(富岡多恵子 講談社文芸文庫)

12の短編で構成されています。

富岡多恵子さんの作品の、皮肉が効いていて寂しく、これまでの自分の人生観を覆させるような潔さや、卑小な人間性をも慈しむような懐の深さに魅力を感じてきました。

この短編集の中で特に好きなのは川端康成文学賞受賞の「立切れ」です。
ぼろアパートに住む老落語家菊蔵のもとに、学生らが銭湯で落語をやらないかと、誘いに来ます。
名人ではないけれど、脱衣所のよこでバレ噺をしているとそこはかとなく「現世の欲の皮の抜けた透明感」や「陰気な艶」とがあらわれる。

そしていよいよ客も少なくなり最後に選んだ演目は「立切れ」。お線香の煙が切れるとともにいなくなる亡き妻の亡霊。
そして、噺をやめることになりほっとする菊蔵はスーパーの釣り銭でもうけたと喜び、溺れたこどもの母親の顔を見つめつづけにはいられない。そんな卑小な主人公に作者の愛おしむ目が注がれていて、作品のこの上ない魅力になっている。

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。
ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。

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