古い家に引っ越し、公園で見つけた甲虫を飼う五十歳近くの新婚夫婦の物語。なぜか人生の哀れをしみじみと感じさせます。「武蔵丸」(車谷長吉)
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古い家に引っ越し、公園で見つけた甲虫を飼う五十歳近くの新婚夫婦の物語。なぜかしみじみとします。「武蔵丸」(車谷長吉 新潮文庫)
文庫のだいぶ古くなった本で恥ずかしいのですが、ときどき手に取って読みたくなります。
きっと小説には、希望を持たせてくれる小説と、その逆とがあると思うのですが、この小説は逆張りというか、あえて希望をもたせずに静かな冷めた境地にたどり着かせてくれる小説といえるのかも知れません。
こんな風に始まります。
「平成十一年十一月二十日朝、武蔵丸が死んだ。武蔵丸と言うても、いまを時めく大相撲の横綱武蔵丸光洋関のことではない。うちの愛玩動物の雄の甲虫のことである」
と少々、煙に巻くようなスタイルで書かれています。
50手前の新婚夫婦(夫である私は作家)が、どうにかこうにか牛込千駄木町の一軒家を手に入れます。このあたりも詳細に書かれていて、住所も小説の中では古い詩のように略さず丁寧に描かれていて、しみじみとさせられます。
そんなところから大正時代かと思えるような風情の中で小説が進行し、ある夜夫婦は、公園の中で甲虫を見つけます。捕まえて家につれて帰り、それ以来、夫婦で「むさちゃん」と呼ぶなどして時にはメロンなどをあたえて可愛がります。まるで冗談のような本気のような不思議な小説。
季節はやがて秋から寒い季節に変わり甲虫もだんだん元気がなくなって・・・と、そういう経緯が丁寧に克明に、ある部分では観察日記のように書きつづられています。人生のあわれをしみじみと感じさせる小説でもあると思います。
ぜひ手に取って読んで見てください。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。
2025-08-21 by
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