ツグミ団地の人々 〈小鳥が逃げた 13〉

「わぁー、奈々ちゃんきれいねー」
式場の入り口で、そう叫んだのは茂夫の弟、勝三の弟の嫁さんで園子さんという。ちょうどその時、園子さんの携帯電話が鳴った。

「はぁい、もしもし、ああ、そう、やっぱり無理なのね」
それから、美佐子の方にさっと振り向きくと言った。

「ちょっと、美枝子さん、こっちへ来てくれない」
横柄な口のきき方をする中年女なのである。園子は形ばかりヒソヒソした声でささやくが、地声が大きいので周りに筒抜けの声でいう。

「うちの旦那が、朝、転んで捻挫したのよ。それでね、大急ぎで冷やしたり湿布したりしたんだけど。まだ痛みが引かないって、今電話がきたの」
「まあ、そうなの。心配だわね」
「少し痛みが治まったら、タクシーを飛ばしてくるって。式は無理でも披露宴だけでも出席しないとね。あなた、たった1人の叔父さんなんだから、しっかりしてよって、今はっぱをかけたところよ」
「どうぞ、無理しないようにしてくださいよ」
「まあ、ひょっとしたら披露宴も無理かもしれないけれど。いいのよ、お祝いはちゃんと二人分包むから、それは心配しないで」
 美奈子は仕方なしにうなずいた。

「あなたも母1人。子1人の生活で大変だったでしょうね」
 感にたえない様子で言う。
「ええ・・・・・・まあ」
 美佐子は、いつ巫女さんに呼ばれるかと祭壇の方を気にしながら言った。少し前にいる奈々に聞こえないかと気が気でない。すると園子叔母は、またもやひそめたつもりの、みんなにまる聞こえの声でいった。
「それで、茂夫さんからはまったく連絡がないの」
「ええ、まあ」

 美佐子の額にじっとりと脂汗が浮かんできた。
 そのとき、やっと準備ができたらしく、「・・・・・・家・・・・・・家」と読み上げる声が聞こえる。彼らは赤い袴をはいた巫女さんに誘導されて式所へと入っていった。


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