ノベル
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2021年10月09日
抜け道 (3)
その朝も十時に玄関の戸が開いて、遠藤菊子がやってきた。彼は立つのが面倒なので、勝手に上がってもらうことにしている。 八畳と六畳の座...
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2021年10月06日
抜け道 (2)
すると彼には、もう何もすることがなかった。 首を巡らすと出窓の上に団扇があるのに気がついた。どうということもなくそれを手に取り、ぱ...
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2021年10月02日
抜け道 (1)
――じゃあ、いったい俺はだれなんだ。 ――あなたさまですか・・・・・・? あなたは、あたしのいい人でございますよ。 うっすらと笑い...
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2021年09月28日
午後のサンルーム(9) 最終回
その朝、恵子は朝方早い時刻に目を覚ました。 汗をかいている。部屋の中は静かで、障子を通して入ってくる弱い光が箪笥の上の人形を青く浮き...
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2021年09月24日
午後のサンルーム (8)
それは八月半ば過ぎで、早くも秋の気配を感じさせるそんな日だった。庭のユキヤナギの花が萎れ、バラが狂ったように中庭に咲き誇っていた。 ...
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2021年09月20日
午後のサンルーム(7)
年中旅行して歩いている女がいる。 善光寺というのが甲斐にもあるのを知ってるか、とその女はいった。女は長年高校の教師をしていて、ちょ...
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2021年09月16日
午後のサンルーム(6)
その日の午後も、菊江たちのグループは昼食の後、3階のサンルームで時間をつぶしていた。 ガラスに囲われた動物たちのように人々は、ちょっと...
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2021年09月12日
午後のサンルーム(5)
ある日、恵子たちのグループが食堂から出ようとすると、先に食事を終えた佐々木シズ子がドア横のイスにすわっていた。その姿がずいぶん小さく...
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2021年09月08日
午後のサンルーム(4)
明るい色のひらひらした塊が、ホールの奥から歩いてくる。 そばまでくるとたくさんのフリルの上にしなびて小さい老女の顔があった。白く塗り込...
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2021年09月04日
午後のサンルーム(3)
その日の午後、恵子と菊江の姿は、食堂横のサンルームにあった。 色の褪めた葡萄色の長いすが広い窓に沿って置かれ、二人の老女は並んで座って...
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2021年08月26日
午後のサンルーム(2)
ここは老人たちの天国でもあり墓場でもあった。彼らは幸せな人々であり、十分生きたという意味で不幸でもあった。 食堂の中は混雑していた...
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2021年06月21日
午後のサンルーム(1)
明る過ぎる陽がベランダに差している。壁にかけた時計を見ると十二時少し前だった。読んでいた本を、小テーブルに伏せて恵子は立ち上がった。...