グリーンベルト (5)
言い出したのは、わたしだったか葉子さんだったか。君江さんでなかったのは確かだ。君江さんは午後は、市内のデパートにショッピング行きたかったのだ。君江さんのお姑さんがクイーンサイズの人なので、LLサイズのムウムウやワンピースを見繕ってきてほしい、と頼まれていたからだ。
アメリカにならきっと、大きいサイズの服がたくさんあるでしょう、とそういうわけ。
絶望的なのは、旅行2日目にして3人の生活習慣が全く違うのがわかったことだ。
葉子さんは夜型で用もないのにいつまでも起きている。本を読んだり手帳の書き込みを確認したり、あげくに持参したブランデーの小瓶を開けてちびちび飲んだり。
君江さんは朝型。朝、空がほんのり明るんでくるともう寝ていられない。カーテンの隙間に首を突っ込んで外をながめたり、洗面所で水をジャブジャブ使ったり。スーツケースの蓋を開けてごそごそ捜し物を始めたり。もう我慢の限界だったわ。
葉子さんも何度も寝返りを打っている。そんなことで今朝ひと悶着あったばかりだ。君江さんがため息をつきながら言う。
「きっと気にいった者は見つからないと思うわ。あの人は好みの難しい人だから。どんなものでも必ず難癖をつけるんだもの。ああ、いやだいやだ、いつだって顔色をうかがってばかり」
こういう話題になると、ずぐずついた秋の長雨のごとくなるので放っておくに限る。
やがて君江さんは自分で軌道修正する。バッグの中身を全部テーブルの上に開ける。ティッシュをきちんとたたんで袋に入れなおす。ハンカチのしわを両手で引っ張って伸ばし、小銭入れからレシートを出して袋にしまう。それが全部済むと顔を上げ、ニッと笑いかける。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。遅くなっちゃうわ」
私たちは何事もなかったかのように、うなずいて立ち上がる。こういうときの君江さんはたいへん好きだ。
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