グリーンベルト(25)
私たちは駐車場を出るとだらだらした丘のような道を下り、大きな建物の中に入っていった。日本のアウトレットのような店を巨大にして中を迷路にした感じだ。そこには、あらゆる生活に必要なものの店が並んでいた。私たちは、キョロキョロしながら中を見て歩いた。
「さすが、アメリカ。すごい」
ヘレンは一寸嬉しそうにしてにこにこ笑っている。
彼女は本当に日本の客人を驚かせたり、喜ばせたりしたいのだ。私たちは、アメリカの日の下でこそ似合いそうなTシャツのお店を見たり日用雑貨の店を冷やかしたりした。
望みのチョコレートもどうにか手に入れることができた。
「キヨミ、あなたは何か買いたいって言ってたわね。それは何」
へレンが、キヨミさんのほうを向いて聞いた。
「キャンプ用のデッキチェアがほしいのよ。なかなかいいのが見つからなくて。ここならあるかなと思ったけど、見つけられそうにないわ」
「まあ、きっと、どこかにあるはずよ、もう少し探しましょう」
人が困っていると必ず手を差し伸べずにはいられないヘレンが聞いた。
「もういいのよ」
キヨミさんが言う。
「もうちょっと探してみましょう」
ヘレンが真剣な顔でキヨミさんを見つめる。
「だいじょぷよ。それに、デッキチェアが欲しかったのは、亡くなった夫なのよ。だからほんとはもう必要ないの」
「でも、手に入れたいんでしょう」
私たちも、わかるわー、という感じでうなずく。
キヨミさんはちらっと時計を見ると、急にソワソワしだした。
「今日は家にお客がくるのよ。だから先に帰るわ。帰りは、ヘレンの車にみんなで乗って」
みんな困惑してキヨミさんの顔を見つめていた。
「帰りはもう大丈夫よ、ヘレンも道を覚えたから。じゃあ、行くわね」
キヨミさんはそう言って手を振ると背中を向けた。
「待って」私は言った。「また、会えるかしら」
キヨミさんはちょっと困ったように振り向いた。
「ヘレンがあたしの住所を知ってるわ。だからヘレンに聞いてね」
そう言うと、キヨミさんは帰っていった。買い物中も神経症的にうっすらと笑い続けていたが、それが愛想笑いなのか、苦痛を耐え忍んでいるのか最後までわからなかった。
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