「アップルパイの午後」尾崎翠作品集 / 蘚(コケ)の恋愛が不思議な「第七官界彷徨」も

こんにちは、ゆきばあです。毎日ブログを更新しています。
「アップルパイの午後」 作 尾崎 翠(おさき みどり)
大学卒業の翌年ころに購入した一冊で、手元に置いて大切にしています。
尾崎翠は、1896年(明治29年)生 – 1971年(昭和46年)没の女性作家。
独自の繊細な感性の持主で、今も隠れファンがたくさんいるのではないか、と推測しています。
尾崎翠は、若いころに、いっとき注目されていた作家です。
夭逝したというのではないですが、途中から消息が途絶えてしまったこともあり、いつまでも初期の若く繊細なイメージのままで人々の頭の中に、印象づけられているようです。
たとえば、非難されるのを覚悟でいえば、萩尾望都作品のどれかを読んでいるような味わいも。
明治29年生まれですが、作品のもつ独自の繊細さや、感覚の鋭さ、斬新さに驚かされるでしょう。
「アップルパイの午後」(1976年7月15日発行 新装版)には、表題作のほか「歩行」「地下室アントンの一夜」「第七官界彷徨」なども入っています。いずれも、青春のみずみずしさや繊細さが痛いほどにつたわってくる作品です。
「歩行」~おもひを野に捨てよ
「歩行」は短い小説ですが、風の吹きわたっているような印象をあたえる作品です。
兄の知人である心理病院の一医員・幸田当八氏が、しばらく主人公の少女の家に滞在します。そのため、部屋を明け渡し少女は屋根裏部屋の住人に。
少女も当八氏の「人間研究」のモデルにされるのですが、幸田氏が去ったあとも少女は屋根裏部屋に住みつづけ、鬱屈をかかえ、当八氏のことを考えつづけます。つまり初恋でしょうか?
少女を可愛がっている祖母が心配し、外の風にあてさせようと、お萩を作って土田九作氏の家に持たせます。
少女は野原をさまよい歩き、なかなか目当ての家にたどりつけません。
この風に吹かれつつ歩く当て処ない感じには大変惹かれます。
「歩行」を読んでいると、今手もとにないのですが、キャサリン・マンスフィールドの短編「風が吹く」を思い出します。
土田氏が少女のようすを心配し、紙切れに詩を書いて渡してくれます。
(その一部抜粋です)
おもかげをわすれかねつつ
こころかなしきときは
ひとりあゆみて
おもひを野に捨てよ
この「おもひを野に捨てよ」は、「悲しみを野に捨てよ」として、一部広まっているようです。
たしかにそうすると、余計に胸に迫ってくる感じですね。
蘚(コケ)の恋愛が不思議な「第七官界彷徨」
「第七官界彷徨」は、人の五官と第六感を超えるような詩を書きたいと願う少女・町子が主人公。
分裂心理を研究している一助(兄)、蘚(コケ)を調べている二助(兄)、音楽家志望の三五郎(従兄)の4人とともに一軒の家で共同生活を送っています。町子は炊事係を担当しています。
題名を読んだだけでおわかりになると思いますが、はっきり言って、とても不思議な作品です。
成就しない恋、蘚(コケ)の恋愛、若い女性の実存主義的考察、ここに鬱屈した心理が複雑にからみあい、不思議に魅力的な世界を創り出しています。ぜひ読んでみてください。
「アップルパイの午後」はオシャレでモダンな二組の恋愛
シナリオ形式で、二組の男女の交錯した恋愛感情が、アップルパイの甘い香りとともに描かれています。
大正~昭和初期なのに、その「モダンガール」風のオシャレな感覚に驚かされます。
尾崎翠は、途中から書かなくなってしまったようなのが残念です。
そんな風に思っていたら、「小川洋子の偏愛短篇箱」の中に
尾崎翠の「こおろぎ嬢」を見つけました。驚きました。
昔の友人を見つけたようにうれしかったですね。
才能ある女性の、「その後」の生き方についていろいろ考えさせられます。
後ほどまたぜひ紹介させてください。
購入して半世紀もているため、もう人生をともに歩んでいるような気さえする一冊です。
現在は「第七官界彷徨」として出版されているようですが・・・。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。
ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。










