「アップルパイの午後 尾崎緑作品集 / 蘚(コケ)の恋愛が不思議な「第七官界彷徨」も

「アップルパイの午後 尾崎緑作品集」(出帆社) 1976年新装版発行

こんにちは、ゆきばあです。毎日ブログを更新しています。

「アップルパイの午後 尾崎緑作品集」、若い頃から大切にしている一冊です。
きっと隠れたファンがたくさんいるのではないかと思える尾崎緑。若き頃にいっとき注目されていました。夭逝された作家ではないけれど途中から音信不通になったこともあり、若く繊細な姿のまま人々に印象づけられているように思えます。

たとえば、非難されるのを覚悟でいえば、萩尾望都作品のどれかを読んでいるような味わいも。1896年生まれですが、作品のもつ繊細さや、感覚の新しさに驚かされるでしょう。

「アップルパイの午後」(1976年7月15日発行 新装版)には、表題作のほか「歩行」「地下室アントンの一夜」「第七官界彷徨」なども入っています。いずれも、青春のみずみずしさや繊細さが痛々しいほどにつたわってくる作品です。

「歩行」はとても短い作品ですが、風の吹きわたっているような雰囲気があります。
兄の知人である心理病院の一医員・幸田当八氏が、しばらく主人公の少女の家に滞在します。少女も人間研究のモデルとされるのですが、幸田氏が去ったあとも少女は屋根裏部屋に住みつづけ、鬱屈をかかえ、当八氏のことを考えたりしています。
心配した祖母が、少女を外の風にあてようとお萩を作って土田九作氏の家に持たせるのですが、少女は野原をさまよい歩きなかなかたどりつけません。

ここのあてどない感じが私は大変好きです。これを読むと、今手もとにないのですが、キャサリン・マンスフィールドの短編「風が吹く」を思い出します。

土田氏が少女のようすを心配し、紙切れに書いて渡してくれる詩の一部を抜粋します。

おもかげをわすれかねつつ
こころかなしきときは
ひとりあゆみて
おもひを野に捨てよ

蘚(コケ)の恋愛が不思議な「第七官界彷徨」
 

「第七官界彷徨」は、人の五官と第六感を超えるような詩を書きたいと願う少女・町子が主人公。
分裂心理を研究している一助(兄)、蘚(コケ)を調べている二助(兄)、音楽家志望の三五郎(従兄)の4人とともに一軒の家で共同生活を送っています。町子は炊事係を担当しています。
とても不思議な作品です。成就しない恋、蘚(コケ)の恋愛、若い女性の実存主義的考察と鬱屈などがからみあい、魅力的で不思議な世界を形づくっています。ぜひ読んでみてください。

この本は、まだ若い頃に購入したもの。人生をともに歩んでいるような気のする感慨深い一冊です。
現在は「第七官界彷徨」として出版されているようです。

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。
ほかにも日々の思いを書いていますので、目を通していただけましたら幸いです。

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